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下町ロケット

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。
そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。
創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、
佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。
特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。
男たちの矜恃が激突する感動のエンターテインメント長編!
第145回直木賞受賞作。




 池井戸潤の下町ロケット。まあ、さすがの面白さです。筋書きは単純と言えば単純なんですが、登場人物たちの生き様や展開の背景の説得力が抜群です。そして、こんなふうに生きたいという読者の想いを仮託してしまうような主人公の信念。
 かたっぱしから読もうという気にはならないんですけど、読めばどれも面白い。直木賞が実に似合う作家さんです(たまに民王のような外れもあるかもしれませんが)。また読む本がないなあというときや、安心して面白いという思える本を読みたい時に手を出してしまうことでしょう。BOOKOFFで買ってあるのが積んでありますしね。

お勧め度:★★★★★
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水鏡推理

正義感を発揮するあまり組織の枠をはみ出してしまう文科省ヒラ一般職事務官・水鏡瑞希。役所は彼女をもてあまし、研究費の不正使用を調査する特別チームに配属する。税金目当てに悪事がうごめく臭いに敏感に気付く瑞希。彼女は果たしてエセ研究開発のねつ造を見破れるか? 「抜群のひらめきと推理力を持つ美女公務員の下剋上エンタテインメント!爽快で痛快な知恵比べ、しかし芯は骨太社会派ミステリ。」




 松岡圭佑の水鏡推理。

 久しぶりにひどいの読んだ気がします。

 何がダメなのか言葉にしようとして、できない悲しさですけど。キャラを大袈裟に立てて、逆転逆転の痛快劇と評すれば半沢直樹シリーズのように聞こえるのですが、何がダメなのか。

 まずはキャラクター造形の浅さ。そしてまるで時代劇のようなどこで切っても同じ顔な悪人たち、魑魅魍魎の巣食うかのような霞が関と研究機関。そして、最先端科学の場で行われる手品のようなトリック。まったくリアリティを感じません。
 読みやすくてサラッといけちゃうし、テレビドラマ3話分にするのにちょうどいいかもしれませんけど。
 
 科学の価値やイグ・ノーベル賞を貶めるような表現も不快。それは僕の解釈がよくないのかもしれませんが・・・。主人公のことを、まず華奢で胸の大きな美人とアイコン化する昭和のエロオヤジのような感覚も理解できない。

 もう2度と読まないだろうなあ。

お勧め度:★☆☆☆☆

ルームメイト

私は彼女の事を何も知らなかったのか……? 大学へ通うために上京してきた春海は、京都からきた麗子と出逢う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううち、彼女の二重、三重生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも替えていた。茫然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが……。




 今邑彩のルームメイト。

 書かれた当時と違い、解離性同一症をテーマにしたエンターテインメントが身近にあるなかで、ちょっと都合よすぎる展開は鵜呑みにできません。しかも、一応エクスキューズはしているけど、そんな簡単に見間違います?ミステリーと思うと、その乱暴な叙述トリックに憤懣やるかたない感じ。
 伏線も何もなく、後半に明かされる、言ってみれば性の傾向(と言っていいのか?)も納得できず。□□と思わせて実は◎◎だったというところまでは読者も予想するだろうけど、真相はその先にありましたということなんでしょうが、自分でその真相への道を否定しておいて無理矢理繋げるんだもんなあ。

 読みやすくはあったし、何かいい作品があればまた読んでみたいと思います。

お勧め度:★★☆☆☆

スイート・マイホーム

長野の冬は厳しい。スポーツインストラクターの清沢賢二は、たった一台のエアコンで家中を隅々まで暖められると評判の「まほうの家」のモデルハウスに心奪われる。寒がりの妻と娘のために、その家を建てる決心をする賢二。新居が完成し、家族に二人目の娘も加わって、一家は幸せの絶頂にいた。それなのに――。赤ん坊の瞳に映るおそろしい影。地下室で何かに捕まり泣き叫ぶ娘。念願のマイホームに越した直後から奇妙な出来事が起こり始める。立て続けに起こる異変の先、賢二を待ち受けていた衝撃の結末とは――。




 昨年、監督:齊藤工 × 主演:窪田正孝で映画化されてますが、その原作小説です。著者は神津 凛子。

 大人要素ありのホラー。息子に勧められましたが、こんな本も読めるようになったかと成長は嬉しい。心身ともにまっすぐ育ってもらいたいものです。まあ、もうじゅうぶん育ってますけど。

 前半はややスローペース。後半視点が変わりながら少しずついろいろと明らかになっていきます。

 まあそんな感じだよねえとは思いながら読み進めていきますが、終わり方の想定を読み誤りまして、最後やられました。考えてみれば、そして伏線回収という意味でもそうなるのは必然。必然だけどやられました。

 おもしろい。ちょっと非現実的な部分もありますが、映像化にも向いてそうというのは確かにわかります。息子に勧められたので若干甘めかもしれませんが、いやそんなことないか。傑作とは言いませんが、納得の

お勧め度:★★★★☆

殺戮の狂詩曲

高級老人ホームで発生した、令和最悪の凶悪殺人事件。好人物を装っていた介護職員の心中に渦巻く邪悪。最低な被疑者への弁護を名乗り出た悪評塗れの弁護士・御子柴礼司が、胸に秘める驚愕の企みとは?




 中山七里の殺戮のバルダーズゲート・・・ではなく殺戮の狂詩曲。ごく限られた界隈でしか通じないボケをかましてしまいました。

 実際の事件をモチーフに、その犯人の・・・危ない、うかつにネタバレするところでした。まあ、弁護を引き受け、その後は変わらぬ御子柴節・・・と言いたいところですが、ちょっと毛色が違いますかね。
 展開はシリーズで最も淡々としていて、最後の畳みかけるようなどんでん返しの連続もなし。まあ、想定外の真実は明らかになりますが、これまでと比べて驚きや納得感が薄くちょっと落ちる感じ。

 とはいえ、リーダビリティ、面白さとも一級品で続編を楽しみに待ちます。

 御子柴の周囲の人物や過去が絡むのがお約束でしたが、そろそろ限界が近い気もします。そこに捉われて作品自体のクオリティが下がってしまうよりも、あくまでも1本の小説としての面白さを追求していただきたいなあというのが正直な思いです。

お勧め度:★★★★☆

虚貌

二十一年前の一家四人放火殺傷事件の加害者たちが、何者かに次々と惨殺された。癌に侵されゆく老刑事が、命懸けの捜査に乗り出す。恐るべきリーダビリティーを備えたクライムノベルの傑作。




 雫井脩介の虚貌。

 後半、話が見えてしまいましたが、それでも最後までおもしろかったと思う。死なないと思った人物がひとり死んでしまったので予想外でしたが。

 読んでいてトリックもわかるのですが(というよりわかるように書いている)、これってありなのかなというのが率直な疑問。昔から映画なんかではありますし、技術的には可能なのかなという気もします。一方で、本当に可能なら、そういう犯罪が起きていたり、それを防ぐための何かもありそうな気もしますがそうでもない。やっぱり荒唐無稽な話なのか。

 作品の根幹に関わるトリックについてそんな思いを馳せながら解説を読むと、そのあたりのことにすべて触れられてました。解説は福井晴敏氏なのですが、僕の言いたいことを明瞭に言語化してくれてて、凄いなと。
 このトリックを認めるかどうかについては、福井氏が言うように、作品の位相が微妙に変わったような感は受けても、否定する気持ちにはならなかったというか、思いもしませんでした。まあ、読み終わった後で、頭の中で振り返って疑問に思ったのも事実ではありますが。
 それがなぜかと言うと、(やはり福井氏の言葉を借りますが)何よりも重要なのはリアリティであり、そこが欠けると物語が空中分解を起こし、読者はしらけてしまうわけです。そしてここでいうリアリティを支えるのは、何よりも人間が描かれているかどうか、その一点に尽きる。この作品が破綻しそうな危うさをベースにしつつも物語として成立しているのは、そこがしっかりしているからなんでしょうね。

 雫井脩介の作品は、ジャンルとしてはミステリーになるのでしょうが、大傑作クロコダイルティアーズを始め、人間をきっちり書いているから説得力があるし、心に響くんでしょうね。
 と言いつつ、トリックの根幹に疑問を持ってしまったので、

お勧め度:★★★★☆

怪物

 めちゃくちゃ久しぶりの読書。

 佐野晶の怪物、というより是枝裕和監督の映画・怪物のノベライズといったほうがいいでしょう。

 肝心の映画を観ていないので、まあなんというか単に小説として読んだ感じで。

 映画でどう表現されていたのかなと時々気になりながら読みました。いじめを疑う母親、担任教師、そして主役である生徒、三者の視点で順番に話が進みます。同じできごとを三度繰り返す感じですね。

 最初の二者の視点まで読んで、これはどう解釈するんだと思いましたが、最終的にはミステリーではなく、思春期の入口の少年たちの切ない物語。ミステリーとしては弱く少年たちの悩みの物語としては薄い感じ。

 映画はまた別物かもしれません。小説としてはコンパクトに収まってますが、2時間で丁寧に描くにはちょうどいいのかな。決して悪くないし、映画から観ればよかったかなと思いました。

お勧め度:★★★☆☆

ゆく年くる年

 今年も終わろうとしていますが、家族と、日常の日々のありがたさ、幸せをあらためて考える1年となりました。

 さて、今年はだいぶ本を読んだ1年だったので、ちょっと印象に残ったものを挙げてみますかね。

 120冊くらい読んだでしょうか。我ながらたいしたもんだなと思います。まあ、それだけ子どもたちにも妻にも相手にされていないということでしょう。

 なんといっても、印象に残っているのは三体シリーズですね。中国のSFという物珍しさもありますが、それはそれとして、壮大なスケールのSFにはワクワクが止まりませんでした。特に2冊目の黒暗森林は最高でしたね。前日譚の球状閃電もよかった。

 あとは、クロコダイル・ティアーズ。独特のミステリーで、この心の襞の描き方(あるいは描いていない)は群を抜いていました。忘れえない1作ですね。

 この2作には及びませんが、いくつか挙げると、とてもタイムリーな話になってしまった無限角形。癖のある読みにくい本でしたけど、支配されるということの意味は体験した者でないとわからないのだろうと思わされ、強く心に残りましたね。
 われら闇より天をみるも独特の面白さがありました。ちょっと最後に納得いかない部分がありましたけど。
 最後に君のクイズ。クイズを題材にしたミステリーという唯一無二さももちろんですが、最後まで畳みかける展開も素晴らしかった。珍しい題材という点では、チェスを題材にしたエヴァーグリーン・ゲームもなかなかの佳作。と思いましたが、あれ?エヴァーグリーン・ゲームの感想書いたっけかな?なんか抜けてる気が・・・。他にも今年読んだのに書いてないのありそう。まあ、思い出せないのはよしとしましょう。

 来年はどんな年になるでしょうか。どうぞ皆様にとって良い年になりますように。僕は・・・・そうですね。真正面を向いてがむしゃらに、迷うばかりに愚かな人生ですが、なんとか天命を知り誠実に進む年にしたいと、そう思っています(何を言いたいのやら・・・)。

物語のおわり

妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、
父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性……
様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで
受けとるのはひとつの紙の束。
それは、「空の彼方」という結末の書かれていない物語だった。
山間の田舎町にあるパン屋の娘、絵美は、
学生時代から小説を書くのが好きで周りからも実力を認められていた。
ある時、客としてきていた青年と付き合い婚約することになるのだが、
憧れていた作家の元で修業をしないかと誘いを受ける。
婚約を破棄して東京へ行くか、それとも作家の夢をあきらめるのか……
ここで途切れている「空の彼方」という物語を受け取った人々は、
その結末に思いを巡らせ、自分の人生の決断へと一歩を踏み出す。
湊かなえが描く、人生の救い。



 湊かなえの物語のおわり。

 空の彼方という物語中の未完の物語を巡る物語。

 まあ、なんというか、ほろ苦さと救いとが描かれ、最終的にいろいろ繋がり結末も示されまとまりはいいです。さすがの安定感。が、安定感抜群かもしれないし読みやすいしですけど、毒にも薬にもならぬというかなんというか。

 ひとつの物語の要約を、主人公の数だけ書き分けてるのはおもしろかったですね。

 湊かなえといえば告白で、ほんとに圧倒されましたけど、まあ、今作は比べるべくもない。そもそも比べるようなもんでもありませんが。ただ、それくらい心に残るような作品かもとは期待して読み始めてしまったので、残念。

お勧め度:★★☆☆☆

影と踊る日

「おまえは出来は悪いが、うちの娘だ」
思いつめたら突き進む“跳ねっ返り”女性警察官の真情。

認知症の高齢女性を助けた青年が水死体で発見された。
鈴山澪は事件の背後に悪名高い刑事の存在を探り当てる。
不審な動きを見せる刑事は何を追っているのか?
特殊詐欺の闇を抉り出す渾身の警察小説!




 神護かずみの影と踊る日。この著者の作品は初。

 ちょっと登場人物漏れなく闇を抱えたり、犯罪関係者だったりというのはやりすぎ感がありますが、最終的にすべてが繋がったところはなるほどとなりました。しっかり過去まで清算できるのか危ぶみましたけれど、残したものは無し、次に続けることもできる感じ。続編も書いて欲しい気がします。

 帯にもなってますが、いかにもいい科白の「おまえは出来は悪いが、うちの娘だ」は、話の展開上はたいして意味なし。どこでそのセリフが出てくるいい話かと思いきや、それは肩透かし。詐欺ですな。

お勧め度:★★★★☆
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